過去を巡る 〜小学三年生①〜
父は相変わらず子供に無関心だったので、この頃会話を交わした記憶はありません。
あまりに何もしないので「土日くらい子供とキャッチボールでもしてきなさい!」と母に言われ、重い腰を上げしぶしぶ公園に行くような父でした。
ただ普段から運動嫌いで体を動かすことがなかったため、キャッチボールをしたところでろくに捕球することもできず、情けなく頼りない父だと思っていました。
母は早いうちから子供に自立してほしいと考えていたようで、小学生に上がった頃から親に甘えること(スキンシップの類)を禁止していました。
ある日…確か3年生だったと思いますが、トラウマになるような出来事がありました。
何が原因だったかは忘れましたが、その日は学校で嫌なことがあって、元気を失い落ち込んで家に帰りました。
家では母がキッチンで夕ご飯を作っている最中でした。
気分が落ちているところで、いつも見慣れてる家庭の光景を見て心が安らいだのか、料理の匂いでリラックスしたのか、無性に感傷的な気持ちになり、その時だけは親に甘えたくなりました。
しかし甘えることは禁止されていたため、実行するにはとても勇気が必要でした。
甘えると怒られるかもしれない。また自立しなさいと言われるかもしれない。でも何ヶ月も甘えてなかったし、今日ぐらい何も言わずに受け入れてくれるかもしれない。
この1回だけ甘えよう。この1回だけ甘えたら、もうこれから先は二度と甘えない。自立して強くなるんだ。だから今回だけは縋ることを許してください、お願いします。
祈るような気持ちでした。
勘のいい方はお察ししたかと思いますが、案の定母には「ちょっと。やめなさい。あなた何歳だと思ってるの?」と言われて終わりました。
何歳だと思ってるの、と言われても。
年齢1桁ですが。
自分はもう35歳だから分かります。
辛い時は10歳だろうが20歳だろうが30歳だろうが、誰かに泣きつきたい、縋りたい時はあるものです。
そんな瞬間は誰にでも必ずあると思います。
父は上述した通り何の役にも立たなかったし、当時の自分は母しか頼る人がいない境遇でした。
その最後の砦をシャットダウンされたわけですから、自分はもう孤独になるしかないのでした。
それ以降、今に至るまで親に触れたことは一度もありません。